歩き方を見直し疲労も軽減
当院のある六甲山系では、紅葉もほぼ見納め。代わりに寒気が入ってくると、今度は「氷瀑」の楽しみが待っています。 私も、週末は六甲山系の日帰り登山を楽しんでいますが、つい治療家の目として登山者をみてしまうのは職業病と思っています。
ひざが笑うとは?
遭難の原因でいちばん多いのが「道迷い」ですが、次いで多いのがケガや極度の体調不良です。今回はそのケガや体調不良についてお話します。
長く足を使うと「ひざが笑う」という表現をつかいますが、これはヒザを包んでいる一番大きなももの筋肉が疲労して荷重をコントロールできなくなっている状態なのです。正確には「大腿四頭筋:だいたいしとうきん」と呼ばれる筋肉が極度に疲労しているのです。人の運動中は常に使われる筋肉で、走る、曲がる、止まる、飛ぶ、しゃがむ、蹴るなど、とても大事な働きをしています。
ひざが笑う原因として一番にあげられるものは、「筋力不足」ですが、それ以外にも歩幅や歩き方等も大きく影響します。特に登山では、平地と違った特有の筋肉の使い方をしますので、体の仕組みを知っておくことがケガの予防につながります。
遭難のほとんどが下山中におきる
では、次に上り下りの足の様子を描いたイラストを見ていきましょう。「急登」「激下り」と呼ばれるレベルの斜面を歩いていると思って下さい。 この時の筋肉は、「急登」では立ち上がるように働き、「激下り」ではゆっくりしゃがむように働きます。これは、スクワットをイメージすると分かりやすいと思います。
筋肉は本来「縮む」方向にしか働けません。「伸びる」ためには、反対の筋肉で引っ張るか重力に任せるしかないのです。つまり、脳は筋肉に「縮め!」と指令は出せますが「伸びろ!」とは出せないのです。 上りでのももの筋肉は「縮む」方向に働き、体と荷物を持ち上げてくれます。筋肉をしっかりと使うので疲れや、疲労感も出やすく、休息をいれるように体に要求します。
逆に下りでの筋肉は「伸びる」方向に働くのですが、そのままでは重力に従ってしゃがんでしまいます。そこで、ももの筋肉はブレーキをかけながら徐々に「伸びて」いきます。実はこれが、筋肉にとって大変な負担がかかっているのです。「伸びるのか、停止するのかはっきりして!」といった感じです。
さらに下りでは、体と荷物のほかに加速度というものが片足のももやヒザにかかって来ます。例えば、体重65キロで荷物が10キロだと、75キロ+加速度が片足にかかると思って下さい。下山中は常に、これだけの負荷がかかっているのです。
また、下山中は上りと違い、体的にも楽になるので精神的に気がゆるみ、足元に注意がいかなくなりがちです。そして、早く降りたいがために歩幅を広くとると更に加速度が増し、気がつかないうちにももやヒザにダメージが溜まっていきます。そして、踏ん張りが効かなくなり、ちょっとした浮石で捻挫をしたりバランスを崩しやすくなります。これが、下山時に遭難を招きやすくなる原因なのです。
後ろ足で下る
登山者を観察していると、ドスンドスンと大股で下って行かれる方をよく見かけます。正しい歩き方は階段を降りるように、歩幅を小さく静かに後ろ足で下るのが正解です。歩幅を小さくすることで加速度を減少させ、ヒザやももなど体への負担を大きく減らすことができます。
ほかにも、滑落や落石の予防にもなります。早く下山したいのはよくわかりますが、時間に余裕をもって上りと同じように休息をとりながら歩くことが、遭難事故を未然に防ぐのです。 特に、グループ登山のリーダーはメンバーの体調をしっかりと管理し、余裕を持って下山できるように計画段階から安全登山に努めて下さい。
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